top of page

先の見えない楽しさ|にちようだな

何にでも始まりがあります。私の身には、新しい病気が始まりました。

虫刺されの跡だったはずのものが消えなくなり、これはおかしいと診断を受けたらアレルギーでした。今にして考えれば、十数年以上前から繰り返し見えていたのです。でも田舎住まいなので、「なんの虫かな?」くらいに思って放っておいたのが大失敗。こうしてアレルギー新入生になりました。

持病を抱えていてきついのは、この先さらに悪くなるかもしれないと想像するときです。外出や食べるものを警戒するようにもなりました。健康に気をつけるのは当然だとしても、そればかりだと住む世界が縮んでゆきます。この「世界が縮む感覚」は本当に肌をしめつけるようで、怖さがつのってゆきました。

そこで、とにかく新鮮なことを何か始めてみようと思い立ちました。悪い将来だけでなく、楽しい将来も想像したかったのです。


よいきっかけになったのが、ZINEの制作でした。本好きの方と雑談をしていたときに、「ZINEを作ったら面白いんじゃないか?」という話題が出たのです。

私はZINEを作った経験はゼロでしたけれど、参加を決めました。むしろ慣れていたら参加しなかったかもしれません。たまたま集まったメンバーで、とりあえず作ってみたいという心境でした。

制作を始めてみると、私にとってフレッシュなことずくめで退屈しなくて最高でした。たとえるなら、「その場にいるメンバーでバンドを組み、演奏をアナログレコードに録音して手売りする」みたいな活動かもしれません。

行き当たりばったりなところもありつつ、メンバーの皆さんや印刷所さんのおかげでZINEは完成しました。「30冊までできるといいなあ」と思いながら、販売前日に手作りで製本したのもよい思い出です。

創作に夢中になったおかげで病気も軽くなり……という展開になればなお素敵ですけれど、さすがにそんなわけはなく。でもZINEが好評だったので充分です。


持病がありながら、自分を大切にするにはどうすればよいか? 私にとっては、体を気づかう他に新鮮な体験が必要でした。

小さな一歩のおかげで、病気がもたらす「先の見えない怖さ」だけではなく、ものづくりを通した「先の見えない楽しさ」に気づいたのです。

またZINEを作るかどうかは分かりませんけれど、自分を動かしてくれる「先の見えない楽しさ」をこれからも探してゆきます。



テーマ『自分を大切にする方法』

2022/5/1発行「ちがう生き方」第1号掲載

閲覧数:1回0件のコメント

最新記事

すべて表示

イングリッシュマフィン(具なし)|波多江幸広

昼ごはんに何か食べようと思ったけど、 パンしかない。 冷蔵庫には何もない。調味料しかない。 具と言えるようなものが。 「「何もない!」」 そのパンは、白い粉のふいたイングリッシュマフィンで、具を挟んでよと、切れ込みがむなしく入っていた。 仕方がないから。パンだけをかじる。...

夜は光とおしゃべりをする|にちようだな

ここ数年、外にいる時は夜が多くなりました。歩いていても自転車や電車に揺られていても、暗くなってからの空気のほうが気楽です。すっかりなじんでしまったので、仕事の都合も夜に合わせるようになりました。 夜は怖い時もあるけれど、意外なタイミングで人を親密にします。昼だったら人の波に...

声で始まる日常|hamapito

私の日常は「声」から始まる。 目を覚ました瞬間に漏れる声。まだ寝ていたいと頭で呟く声。「んー」と隣から聞こえる声。自分の声も誰かの声も朝は柔らかく響く。だからだろうか、アラーム音よりも声で起こされた方が起きられるのは。 実家で暮らしていた頃、私を起こすのは母だった。目覚まし...

Comentários


bottom of page