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イングリッシュマフィン(具なし)|波多江幸広

 昼ごはんに何か食べようと思ったけど、

 パンしかない。

 冷蔵庫には何もない。調味料しかない。

 具と言えるようなものが。

 「「何もない!」」


 そのパンは、白い粉のふいたイングリッシュマフィンで、具を挟んでよと、切れ込みがむなしく入っていた。

 仕方がないから。パンだけをかじる。

 口に含むと、真っ白な小麦の匂いが香ばしい。

 その香ばしさと、具無しという虚しさが、頭の中に視覚的イメージを無理やり立ち上げる。


 それは、なにかの丸い物体。そしてその上に、素朴な白くて薄い布が被せられている。

 布の膨らみ方から、丸い物体の上に被されているとわかる。

 さらに、視覚的イメージは異世界へとワープした。そこは、誰もいないモデルハウス。その中を歩き、白い壁を撫でて眺めてみる。壁には凹凸があり、何でもない感触が手のひらを伝わってくる。ざらざらと。

 また、視覚的イメージは次の世界に飛ぶ。いつの間にか撫でていた壁は、どこかのちびっ子の頭になっている。刈りたての頭髪。柔らかい頭皮と手のひらの間隔を保ったまま、さわさわと左右に振る。言いようのない背徳感にさいなまわれた。

 これは、切れ込みのあるイングリッシュマフィンに、具を挟まなかったことにより見せられた束の間の白昼夢だった。


 別に子供を授からなくとも、自分の作った作品で、自分を受け継げるなら、まあ救いは全く無いとまでは行かない。


 新たな流れ、支流が出来ている。いや、元からあって気付いてなかった太い水の流れに、合流していく感じがする。


 これからは、周りにいる人も、すぐそばで触れられる人も、街の知らない人もすれ違う人も、昔の人も、昔々の人も、過去の人も未来の人も、これから会うであろう大切な人も恋人も、その人と授かる未だ見ぬ子供も、全員と繋がっていると感じていたい。そして大切にしたい。ゆくゆくは遠い世界の地球の反対側の人まで…

 それが一番幸せになる方法だ。

 だから私はーーー。


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