top of page

二度寝|ほのかに かおる

 朝七時半に起床。小学三年生の子を起こして衣服を用意、朝食に海苔で巻いた塩むすびを急いでこしらえる。子の水筒に冷水を入れ、食べ終わった子の歯に海苔がついてないか、鼻に鼻くそ、目に目やにがついたままになってないか自分でチェックさせ私も一応チェック、最後に子が金魚にエサをあげ八時に登校していく。

 慌ただしい三十分間の後、二度寝をするのが最近の楽しみであり、会社を辞めた二年前から背徳感のある日常となった。

 ふたたびのベッドに潜り込み、十時にアラームをセット、SNSをスクロールしながらウトウトと眠りにつく。他の人たちはこれから仕事だというのにこんなことして申し訳ないなと思いながらも幸せを感じてしまう。二度寝のアラームで起きられた試しがない。たいていいつも三十分から一時間後になんとか体を起こす。明日こそは二度寝せずに有意義な午前中を過ごすのだと決意しながらもまた次の日には二度寝の怠惰な誘惑に負けてしまう。

 朝食も兼ねた昼食を買いに部屋着でコンビニへ向かう。レジ横に能登半島地震の募金箱が置いてあり、久しぶりに千円札を入れる。何億と募金が集まるなかで私の千円が一体何の役に立つのだろう。著名人が多額の寄付をするニュースを見るたびに自分のちっぽけさを思う。募金する額で人間の大きさが決まるわけじゃない。そんなことは分かりきっている。でも「自分にできることをする」というのはその通りだけど、手を出しやすい言い訳のようにも感じる。

もともと一万円を寄付しようと思っていた。寄付先をどこにしようか迷っているうちにいつの間にか多額の募金が集まっていた。SNSで障害者への物資が不足していることを知り、サイトから支援する物資を物色、三千円と五千円の介護用オムツで三千円を選ぼうとする自分の浅ましさが嫌になり、五千円のオムツを選択して送った。

 十七時に子が帰ってくる。子の宿題を見て、夕食の準備に取りかかる。夕食の献立を毎日考えるのが本当に煩わしい。昼食を食べながらきょうの夕食どうしよう…と考える愚かさよ。子を生かすために自分を奮い立たせる。子のために大人とは別メニューを作ることもしばしばある。一刻も早く好き嫌いなく何でも食べられるようになってほしい。

 二十二時半に子と一緒にベッドに入る。暗闇で子がきょうあった出来事を創作もまぜて話してくれる。最近の話題は究極の二択だ。子の好きな食べ物の二択を出していき、一位を決める。あれこれ悩むのがとても楽しいらしい。今の一位はしょうが焼きだ。眠る前に話すことが子は楽しいようだし私にとってはご褒美であり、かけがえのない今だけの日常だと思っている。そして、子が寝た後にこっそり抜け出して韓国ドラマをひとり見るのもまた至福の日常なのだ。



テーマ『私の日常』

2024/3/31発行「ちがう生き方」第5号掲載

閲覧数:8回0件のコメント

最新記事

すべて表示

イングリッシュマフィン(具なし)|波多江幸広

昼ごはんに何か食べようと思ったけど、 パンしかない。 冷蔵庫には何もない。調味料しかない。 具と言えるようなものが。 「「何もない!」」 そのパンは、白い粉のふいたイングリッシュマフィンで、具を挟んでよと、切れ込みがむなしく入っていた。 仕方がないから。パンだけをかじる。...

夜は光とおしゃべりをする|にちようだな

ここ数年、外にいる時は夜が多くなりました。歩いていても自転車や電車に揺られていても、暗くなってからの空気のほうが気楽です。すっかりなじんでしまったので、仕事の都合も夜に合わせるようになりました。 夜は怖い時もあるけれど、意外なタイミングで人を親密にします。昼だったら人の波に...

声で始まる日常|hamapito

私の日常は「声」から始まる。 目を覚ました瞬間に漏れる声。まだ寝ていたいと頭で呟く声。「んー」と隣から聞こえる声。自分の声も誰かの声も朝は柔らかく響く。だからだろうか、アラーム音よりも声で起こされた方が起きられるのは。 実家で暮らしていた頃、私を起こすのは母だった。目覚まし...

Comments


bottom of page