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猫、大脱走|星崎いくよ

 彼岸の入りで、お墓に祖父と祖母を迎えに行った。母が花を生けて、私が不器用ながら線香にライターで火をつけて、別家、本家とお墓に線香をあげた。最後に、うちのお墓に線香をあげて、猫と旦那と、姪と甥、そしてSnowManが元気で笑顔で過ごせるようにお願いした。

 その後、ケーブルテレビの工事が入った。天井裏に配線をする関係で、押し入れから工事の人が入ったりして、大騒ぎだった。

工事が無事済んで、猫はどこにいった?と探したけどいない。まさか?と思って、押し入れの中の布団を引っ張り出した。

ごろん、と猫が出てきた。恐怖で固まっていたようで、饅頭のように丸まっていた。

それから、床の間についている小さい物入れに入って行った。

自分が普段、寝床にしている押し入れの上で知らない人が出たり入ったりしていた。その物音が、かなり怖かったようだった。

それから、しばらくしてトイレに来た猫を見た。落ち着きがなかった。

 雨が降ってきて、開けてあった窓を閉めようと、母の部屋に行った。ガムテープで動かないように、がちがちに留めてあったはずの網戸が開いていた。

猫が脱走していた。

「ちょっと!猫が出てっちゃった!」

慌てて母を呼び、外を探し回った。いつ、脱走したかはわからない。トイレに来てからすぐだとしても、三十分は経っていた。

家の周りは、抜け道として使う人がいて、交通量が多い上に、スピードを出して走る車ばかりだ。

もしかして、もう轢かれちゃってるかもしれない。

気が狂れそうになりながら、必死で名前を呼んで探し回った。雨の中、私なんかどうなってもいいと、腹ばいになって車の下を探した。いない。

隣家の庭に入り、腹ばいになって車の下を見た。やっぱりいない。

畑、溝、必死で探してもいない。

「おったで、玄関開けて!」

母の声が聞こえた。見ると、暴れる猫を必死になって、両手で抱えて、母が玄関へと向かっていた。

畑を走って横切り、玄関を開けた。母が猫を放り込むと、猫はものすごい勢いで中へ飛び込んでいった。見つかってよかった。

「どこにおったの?」

「もう、そんなもん、どっかいっちまったと思って、軒下の蜘蛛の巣を払って、それでも名前呼びながらきたら、そこで鉢合わせした」

母が呼ぶと、出てくる猫。多分、玄関先にある植木の山の下あたりに、うずくまっていたんじゃないか?と、母は言った。

 無事、見つかってよかった。私は、着替えて家の中に隠れている猫を探した。

座敷のカーテンのところに隠れていた。しっとりと濡れていて、まだ目がまんまるだった。

「もう!だめじゃん、外に出たら!」

ちょっと怒って、あとは放っておいた。

しばらく経ってから、出てきた猫は、体も乾いて、呑気にへそ天(仰向けになって、後ろ足が開いてる状態)で廊下に寝ていた。

その姿を見て、ちょっと腹が立ったけど、とにかく無事で良かったと思った。

 翌日。ホームセンターで黒のガムテープを買った。網戸をしっかりと固定して回った。脱走した原因は、前に網戸を固定するために使っていたガムテープが、劣化していたせいで、猫の力でも開いてしまったからだった。

網戸の合わせ目を、左右からしっかりと閉じて、ガムテープを縦に貼った。そして、一番下の部分は横に貼った。網戸とガラス戸もずれないように、ガムテープで固定した。これで一安心。

 猫は味をしめたのか、私が出勤している間に、また脱走しようと網戸を掻いていた、と母から聞いた。

でも、私の貼ったガムテープが効いていて、動かせなかったので諦めたらしい。

これからは、一ヶ月に一度はガムテープの様子を見て、貼り替えていこうと決めた。

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