ティッシュを捨てた。
お昼時、ナポリタンを食べたら口の周りがソースでベトベトになったから、ティッシュで拭いてくしゃくしゃにして捨てた。
何気ないいつもの行動。
はて、私は今まで一体、何枚ティッシュを捨ててきただろう。
飲み物を零した時、服を汚した時、鼻をかむ時。
まだまだシュチュエーションはある。
息を吸うように。息を吐くように。
使ったら捨てる。それ以外に使い道が思い当たらないもの。
小さな不快感を快適に変えてくれるアイテムのひとつ。
毎日捨てているのに、常に身近に無いと困るもの。
駅前のおじさんが配るチラシだって、裸のままではさっさと素通りするけれど、ポケットティッシュに挟まれていたら自分から手を伸ばして貰って、お得感を感じることもある。
これだけ常に使っているなら、思い出に残るエピソードもあるのでは?
沢山使う時。例えば失恋して、心が辛い時。
私は常にティッシュに手を伸ばしていた。
唯一、とめどなく溢れる「悲しい」を、受け止めてくれる存在だった。
なのに私は一度も「ティッシュが手元にあって良かった! ありがとう!」なんて感謝の気持ちを抱いたことは無い。
「あれ? もう空なの? 新しいの出さないと…」
その程度だ。
すぐに新しい箱を開け、更に使う。
たっぷり泣き腫らした後は、望む未来が手に入らなかった事に若干不安を覚えたりもするが、だんだん不幸の沼に沈み続ける事にも飽きてスマホで好きな動画を見て笑い、お腹が空いたと部屋を出てご飯を食べに行く。
そして、心穏やかにお腹も満たされた状態で部屋に戻れば、漫画に描いた様なティッシュの山に出迎えられ、そこでもう一度失恋した事を思い出し、ティッシュを一枚、二枚と引き抜いて小さな山の標高を上げていく。
ゴミ出しの日、大きなゴミ袋にその小さな山を詰め込んで (ついでに失恋の思い出の品も詰め込むのだ) 自分の中で実らなかった恋に決別をして、じゃあどんな未来を生きたいか自分に問いただし、髪を切ろうとか、靴を買い換えようとか、ぽつりぽつりとやりたいことを見つけながらゴミ捨て場に袋を置くのだ。
その後はもう振り向かずに歩き出す。
知らず知らずのうちに、私はティッシュに救われているのかもしれない。
そうやって、ひっそりと捨てられる為に傍にいる。
あなたは気に止めたことがありますか?
別に、地球環境が! とか、節制しましょう!とか、そんな説教じみた事を言いたい訳じゃない。
なんとなく、今回は気になる存在だと思ったからこうして振り返ってみた。当たり前って、自分が思っている以上にありがたいことなんだろうなぁ…。
ナポリタンを食べ終えて、アイスコーヒーの入ったグラスを持ち上げた。
あ、机が濡れてる。
拭かなきゃ。
こうして今日も私はティッシュを使っては捨てるのだ。
テーマ『捨てたもの』
2023/9/24発行「ちがう生き方」第4号掲載
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