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生きているのを忘れる時、とても生きている|にちようだな

本が大好きです。ただ、本を読んでいる時に「生きてる」と感じるかというと、そうでもありません。


本を読んでいる間は、どちらかというと本の方が生き生きしています。文字がいったりきたりして、景色や人になったり、音が出たり、匂いや味がしたり、そしてページがめくれたり。

私の方はといえば、止まっている気がします。死んでいるというほどでもないけれど、とにかく止まっている感じ。本と自分の両方を意識できないので、読む間は本の方に間借りしているというか。同時に2カ所では生きられないというか。


知らない本を初めて手に取る時は、ページをぱらぱらとめくり、気になる何かがあるかを試します。文字、絵、ページをめくった音、紙の色、インクの匂い、舞い上がったほこり……とにかく何でもいいのです。気になることがあったら、またあとでめくります。何も気にならなかったら、それ以上は読みません。

こんな調子なので、10秒くらいしか読まなかった本が沢山あります。その一方で、何年経ってもまだ読んでいる本もあります。


のめり込む本ほど、読んでいる間の私は強く止まっています。読むのをやめて自分が止まっていたことに気づくと、生きているのを感じます。私にとって、生きているのを忘れるのが素敵な本です。


もし、生きているのを忘れさせてくれる本に出会えなくなったら、または自分がそういう本を見つけられなくなったら……そう思うと、不安になります。でも、その時が来たら、そういう本を自分で書けばいいんじゃないでしょうか?



テーマ『生きてるって感じること』

2022/12/17発行「ちがう生き方」第3号掲載

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