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孤独を食べる|永都

「生きることは食べること」。


 テーマ『生きてるって感じること』から浮かんだのは標語のような、どこかで聞いた一文だった。


 母のつくった料理を食す。

 「おいしい」の一言は大切にしていた。加えてどう「おいしい」かもできるだけ毎度、異なる一言で伝えるよう努める。

 おいしさを伝えたときの母のほっとしたような嬉しそうな顔が好きだった。


 うまれた家族は母を含め小食が多い。

 つくった料理が余ってしまった時の母の悲し気な表情がつらくて、教わった「食べ物を残すことはいけないこと」を守りたくて、私はおなかがいっぱいでも、他の家族が残した分までそれを食べきった。

 それは習慣化。早食いの大食いという認識は家族に染み込む。

 早食いなのは、ゆっくり食べるとおなかがいっぱいになってしまうからだった。


 外食へ行っても、食べきれない料理は「私が食べるだろう」という言葉になって飛んでくる。

 私はそれも食べきった。


 一人暮らし。そこには好きなものを好きな量、好きなときに食べてよいという自由があった。

 体重は適度に落ち、体は軽くなった。見目もすっきりして朝から気分もよい。


 家族が改まった。

 私はふたたびいらぬ肉をつける。


 飢餓について考える。

 到底考えが及ばないことがわかっても、私にとって食べることは自身を殺すことに近い響きを含んでしまう。


 生きてるって感じること。

 好きなものを食べたい分だけ用意して、自分のペースで食べること。

 それで私は満たされる。



テーマ『生きてるって感じること』

2022/12/17発行「ちがう生き方」第3号掲載

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