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「私の顔をお召し上がりください」という気持ちで|彩湖あにぃ

今、ガストでこの文章を書いているのだけれども、たまに配膳ロボットが横を通る。


なぜか、意味もなく猫ちゃんロボットを気取っており、爽快な音楽とともに現れては、アナウンサー風の女性の声で「ご注文ありがとニャ☆」「ごゆっくりおめしあがりくださいニャ☆」などと喋る。


コンセプトが迷走している。とても好きだ。おもしろいのでずっとお店に入り浸っていたい。


迷走しているといえば、まさに先月の私だ。自分でも恐ろしくなるほどのスランプで、ずっと気持ちが沈んでいた。なんだか書いても書いても誰にも届いていない気がして。そして、「それでもいい、とにかく書く!」などと開き直れるほど、私は人間ができていなかった。


なんでもないそのへんの一般人である自分が、エッセイを書いたり、コンテストに応募したりして盛大な空振り三振を繰り返していると、心底「誰も私の文章に興味ないんだなぁ」と思う。すると、書く目的が自分でもよくわからなくなってくる。なんのために書いていてなにを書いて生きるのか……? まさにアンパンマンマーチ状態。でも、わからないまま終わる、そんなのは嫌だ……!


そもそも私は、ライター業でも、趣味の執筆でも、「誰かの役に立ちたい」という気持ちが強い。文章も、ネットという場で全世界公開するからには誰かに笑ってもらいたい、励ましたい、みたいな特大感情とともにお送りしている。たとえ押し付けのようであっても、私は誰かの役に立ちたい。


なのに先月を思い返せば、「自分のため」の文章が多かったような気がする。「フォロワーを増やしたい」「たくさんの人に読んでほしい」そういう見えすいた下心が、自身の本心を切り取るペン先の精度を鈍らせていたのかもしれない。「こうすればウケるんでしょ。だから、私を見て!」という精神で書き殴ってしまった。その結果、疲れてしまった。ただのおバカじゃないか。


アンパンマンのようにはなれなくても、やきいもまんとかチョコレートマンとか、一年に一回くらいしか登場しない「誰だお前」キャラでもいっこうに構わない。「私の顔をお召し上がりください」という気持ちで、誰か一人にちゃんと届く文章を書きたい。今はそんな気持ちでいっぱいだ。


そのためには、自分らしさを見失わないこと。心をさらけ出すこと。そうすればまた、「書くのって楽しい! 生きてる!」と思える瞬間がめぐってくるに違いないから。そう、まさに今、この瞬間のように。



テーマ『生きてるって感じること』

2022/12/17発行「ちがう生き方」第3号掲載

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