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おばあちゃんから隔世遺伝した創作魂|彩戸アニィ

創作が行き詰まると、ぐるぐる眠れなくなる夜がある。


そういうときは過去の後悔が、走馬灯のように頭をよぎる。なかでも一番胸に迫ってくるのは、祖母にしてしまった失態だ。


今年99歳になる祖母は「元気」の後に「!」を100個くらいつけたような人だった。長年ひとり暮らしをしており、いつもきれいに着物を着こなししゃんと座っていて、そんな祖母は私の自慢だった。


しかし、ひとつだけ問題があった。


目が悪かったのだ。


いよいよ様子が変だというので大きな病院で診てもらったら、なんと治療には角膜移植が必要で、しかも悪いどころかほとんど視力がないことが判明した。


これには親族一同目ん玉が転げ落ち、ついに祖母は70年ほど暮らした一軒家を出て、私の両親と暮らすこととなった。


移植の順番を待つかどうか。その書類を、祖母は拒否した。


「病院のベッドは嫌」


それが主な理由で。周りがごぞって説得にかかるなか、私は考えた。ベッドの上で弱っている祖母は想像できない。というか、見たくない。


完全なる孫のエゴだった。


「いいよ、手術なんかしなくて」


そう言った時の、祖母のホッとした顔。


もしかしたら、孫の一言は鶴の一声になったかもしれないのに。

私はその役目を果たさなかった。



それから今年で15年。祖母は年々弱っていった。最近は特に時間の感覚も曖昧で、たまに今どこにいるかもわからない。年のせいもあるだろうけど、絶対に目が見えないせいもある。


そんな祖母の姿を見るたびに、後悔が募る。

ごめん、おばあちゃん——。


ぐるぐる考えた次の朝、電話がかかってきた。祖母からだった。

開口一番、「俳句考えて」と言う。


祖母はもうウン十年も俳句を習っており、月に一回教室へ通っている。もちろん最高齢。


「5句考えなあかんのやけどなぁ、思いつかんくてなぁ」


電話を代わった母が困った声で言う。


「昨日は俳句を考えすぎて眠れなかったらしいわ〜」


99歳、創作に悩み、夜更かしする。


先日スランプで一睡もできなかった自分の姿に重なって笑ってしまった。

そうか、これは祖母の血なんだなぁ。


あのときの選択が正しかったかどうか。それは一生消えない問いだ。祖母と向き合うのは、いつも罪悪感を取り繕う気持ちにもなる。


でも、でも、だからこそ。

それはより大切な時間にも思えるのかもしれない。


覚醒遺伝した創作魂を、今日も静かに燃やして原稿に向かう。

さてまずは、俳句作りに取り組んでみるか、なんて思いつつ。



テーマ『自分の中にある罪悪感』

2022/7/1発行「ちがう生き方」第2号掲載

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