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食べてごめん|にちようだな

皆さんは、立ちながらそばを食べるお店を、なんと呼びますか?

「立ち食いそば」が多いでしょうか。「立ち喰いそば」は文字からにじむ空腹感が素晴らしいです。ただ、ここで登場する私はお腹が空いていなかったので、「立ち食べそば」くらいにしてみます。

「立ちすすりそば」、「立ちツルそば」、「スタンダップそば」なども捨てがたいのですけれど、それはまた別の物語ということで。


さて。この世界では、いつも莫大な量の情報が駆けめぐっています。特に、立ち食べそば屋さんの情報量は大変なものです。


あれは冷たい雨の夜。空腹よりも寒さに耐えかねた私は、駅構内のそば屋さんに入りました。

頼んだのは、何となく目にとまった季節のかき揚げそば。客は私だけ、店員さんも一人だけの静かな店内。ゆったりのんびりできるし、冷えた身体に温かいそばが沁みてきて、温泉の貸し切りのようにいい気持ちです。

そこに、次のお客である紺色のスーツさんが登場。スーツさんは、私と同じ季節のかき揚げそばを頼みました。

人気のメニューなんだなあとほっこりしていたら、店員さんから声の一撃。


「あ、季節のかき揚げは終わっちゃいました」


私の頼んだものが最後の在庫だったのです。季節のかき揚げそばの季節が終了。

スーツさんは、そうか〜と残念そうな声をあげ、普通のかき揚げそばに注文を変えました。


私の中で、しまった! という気持ちが湧き上がります。正直、私自身は温かい食べ物なら何でもよかったからです。いや、温かい缶コーヒーやペットボトルでもよかった。

どうでもよかった人が食べて、欲しかった人が食べられない理不尽。

そして、最後に頼んだのが誰なのかを知っている人と、知らない人。

しかも、もしスーツさんが季節のかき揚げそばに詳しいなら、私が食べているものを見て気がつくかもしれません。あれがラスイチか……とか思われたらどうしよう。

店員さんが、「あの人が食べてるのがラスイチです」と教えたらどうしよう(言わないって)。

なんという情報量と緊迫感。私ははじめて、立ち食べそば屋さんの深淵をのぞきこんだのです。


私は、スーツさんに対してすまない気持ちで一杯になりました。なぜ、さっさと食べてお店を出なかったのか。そうすれば、こんな思いをしなくてすんだのに……とにかくごめん。

季節のかき揚げの中身が何だったかは、もちろんおぼえていません。



テーマ『自分の中にある罪悪感』

2022/7/1発行「ちがう生き方」第2号掲載

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